【特定技能】宿泊業で外国人を雇用するには?ビザの要件・試験内容を解説

   

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宿泊業

新たに創設された在留資格「特定技能1号」を活用することで、ホテルや旅館といった宿泊施設で外国人の雇用チャンスが拡大されました。
試験に合格すれば、学歴や職歴を問わず最長5年の就労が可能になる特定技能1号ビザは、宿泊業界の人手不足解消に大きな影響を与えると考えられます。

ここでは、宿泊施設で特定技能1号外国人を雇用するためのポイントと、外国人が受験する日本語・技能評価試験の内容について解説します。

宿泊施設で特定技能1号の外国人を受け入れる背景は訪日外国人の増加と人手不足

まずは、宿泊業界の現状についてみてみましょう。
外国人の受け入れ拡大の背景にあるのは、訪日外国人の増加による宿泊施設需要と、労働人口減少による人手不足です。

政府は、2030年に6000万人の訪日外国人数を達成すると目標を掲げています。
現在の水準は新型コロナウイルスの影響で最低水準まで下がっており、オリンピックも無観客だったこともあり宿泊業界全体ではむしろ人余りの状態です。
対して政府のもともと試算では、業界内ですでに3万人の人手不足が生じていますし、アフターコロナを見越しての人材獲得は既に始まっています。
予想される人手不足は業務効率化やIT化による生産性の向上、女性や高年齢者の雇用促進の取り組みを踏まえても、まだ足りないという状態です。

2018年の訪日外国人旅行者数は2, 890万人と、2013年と比較して約3.4倍増加しています。
今後の旅行者数の増加を踏まえると、むこう5年で10万人の人手不足が生じる見込みです。

こうした人手不足の現状を受け、政府は宿泊業界に対して、向こう5年の特定技能外国人の受け入れを2万2000人と定めました。
この数字は、特定技能1号外国人を受け入れる14つの産業分野で、7番目に大きい数字です。
国土交通省の観光庁の管轄で受け入れが実施されています。

ホテルや旅館の宿泊施設で外国人を雇用するとき認められる業務の範囲は?

在留資格の申請で、外国人が従事する業務内容は許可・不許可を左右する重要なポイントです。
定められている業務範囲に該当しない場合、申請が不許可になる可能性がありますので、事前に確認してください。

▼ 宿泊業で認められる業務の範囲

特定技能1号の在留資格で定められる宿泊業の業務は、宿泊サービスの提供に係る以下の業務です。

  • ・フロント
  • ・企画・広報
  • ・接客
  • ・レストランサービス等

また、宿泊施設館内でのお土産物の販売、館内備品の点検や交換といった、関連業務を一緒に行うことも差し支えありません。
ただし、関連業務のみを行うことは認められませんので、注意してください。

特定技能1号ビザが宿泊業にもたらすメリットは、就労ビザを取得できる外国人の層が広がったという点です。
これまでの就労可能な在留資格の範囲と、特定技能を表で比べてみましょう。

【これまでの在留資格と特定技能ビザの適用範囲】
在留資格(ビザ)の種類フロント企画・広報接客レストランサービス備考
特定技能学歴・職歴不問
経営・管理××××管理職等、経営に携わるポジションのみ可能
技術・人文知識・国際業務×××関連した学歴または職歴が求められる。
技能×××外国料理の調理師は申請可。要職歴。

いままで宿泊施設で就労ビザを取得できるのは、関連した学歴を取得している企画・広報や経理といった専門職、もしくは熟練したスキルを有する外国料理の調理師など、一部に限定されていました。

特定技能1号ビザでは、現場スタッフのポジションで外国人雇用が可能です。
これにより多言語対応できるフロントスタッフを揃えるなど、訪日外国人への対応が実現します。

▼ 特定技能1号ビザが認められない宿泊施設での就労

おなじ宿泊業でも、旅館業の種別で「簡易宿所営業」「下宿営業」にあたるものは、特定技能1号外国人を雇用することはできません。
参考:: 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領

また、風俗営業法に該当するラブホテルといった施設での就労もできません。
こうした事業形態の確認は、外国人を雇用する事業所が、旅館・ホテル営業の許可証を取得しているかによって判断されると定められています 。

特定技能1号の在留資格が認められない業態について、以下にまとめました。 参考:特定技能の在留資格が適用できない業態

業種内容
簡易宿所営業宿泊する場所を多人数で共用する構造、および設備を設けてする営業ベッドハウス、山小屋、スキー小屋、ユースホステル、カプセルホテル
下宿営業1か月以上の期間を単位として宿泊させる営業
風俗営業風俗営業法第2条第6項第4号に規定する「施設」に該当するものラブホテル、レンタルルーム

また、風俗営業法第2条第3項に規定する「接待」を特定技能外国人に行わせることはできません。
参考 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領

外国人労働者が宿泊施設で特定技能1号の在留資格を取得するための要件

宿泊業界

宿泊業での受け入れは、特定技能1号のみです。
ほかの就労可能な在留資格のように、特定の学歴や職歴は求められません。
求められるのは宿泊業界が求めているとされる技能水準を満たしているかどうかで、申請時に外国人に求められるのは、以下の3点です。

  • ・18歳以上であること
  • ・規定の日本語能力試験を合格していること
  • ・規定の技能評価試験に合格していること

なお、特定技能1号は技能実習2号の修了生が試験免除で移行できるとしていますが、2019年の時点で宿泊業においての技能実習生の受け入れはありません。
また、特定技能制度が施行されたばかりの運用では特定活動(インターンシップ)で滞在中の外国人は、下記に紹介する技能評価試験を受験できないとされていましたが、2021年現在では適法に在留する18歳以上の外国人は全て受験資格があります。

宿泊業で求められる特定技能1号の日本語試験と技能試験の内容

宿泊施設で外国人が特定技能ビザを申請する際、合格しなければならない日本語試験と技能評価試験の詳細をご説明します。

▼ 定められている日本語試験と必要なレベル

日本語能力は、以下の2つの試験で判断されます。

  • 【国外】国際交流基金日本語基礎テスト
  • 【国内・国外】日本語能力試験(N4以上)

▼ 宿泊業技能評価試験とは

日本の宿泊業での就労を希望する外国人に対して、業務に必要な知識を有しているかを筆記・実技の両方から測定する試験です。
一般社団法人宿泊技能試験センターの主催で開催されます。

科目内容出題範囲
学科試験60分のマークシート式宿泊業のフロント、企画・広報、接客、レストランサービスに係る知識・技能
実技試験5分程度の口答による判断試験

65%以上を合格基準とし、科目ごとの最低ラインを設けています。
日本語能力試験・宿泊業技能測定試験を合格後、事業者と雇用契約を結んだ外国人は特定技能1号の在留資格を申請することができます。

2019年4月14日に実施された第1回の技能測定試験では、全国で700人を超える外国人が受験しました。

▼ 宿泊業の日本語試験・技術試験の実施主体・日時・場所

試験名実施主体方法回数場所
日本語能力試験【国内】独立行政法人国際交流基金マークシート年2回実施各都道府県
【国外】日本国際教育支援協会1回~2回現地の実施機関に確認
国際交流基金日本語基礎テスト独立行政法人国際交流基金CBT方式約6回、国外のみ実施現地の実施機関に確認
宿泊業技能測定試験一般社団法人 宿泊業技能試験センター筆記・実技【国内】年3回
【国外】準備中
国内は、東京・大阪および地方でも実施予定

参考:一般社団法人 宿泊業技能試験センター

ホテルや旅館等の宿泊施設で特定技能1号の外国人を雇用する5つの注意点

実際にホテルや旅館で外国人を特定技能の在留資格で雇用する場合、受け入れ機関である企業や団体が注意するべきポイントがあります。

  1. 事業主は協議会に加入する(1人目の特定技能外国人雇用後4か月以内)
  2. 直接雇用のみ可能(委託や派遣はNG)
  3. 雇用契約はフルタイムスタッフのみ認められる
  4. 雇用の年数は通算5年まで(1年ごとの更新)
  5. 適切な支援計画を実施する義務がある

以下に詳しく解説します。

▼ 宿泊業の事業主(受け入れ機関)に求められる条件

特定技能外国人を受け入れる宿泊業の企業・団体は、通常の受け入れ機関の要件に加え、以下を満たす必要があります。

  • 旅館・ホテル営業の許可を受けて旅館業を営んでいること
  • 国土交通省が設置する協議会に加入していること
  • 協議会に対し、必要な協力を行うこと

はじめて特定技能で外国人を受け入れる事業者は、当該外国人の入国から4か月以内に協議会へ加入する必要があります。
なお、協議会は特定技能外国人が所属する受入機関が加入する必要があるので加入に関しては登録支援機関に委託ができません

協議会については、以下にお問合せください。

お問合せ先:
国土交通省観光庁 観光産業課 観光人材政策室
電話:
03-5253-8367

▼ 宿泊業の採用は直接雇用のみ可能:派遣での所属は認められない

宿泊業において、特定技能の外国人雇用はホテル・旅館との直接契約のみ認められますので所属は宿泊施設になります。
派遣での受け入れの場合、特定技能1号の在留資格を利用することはできません

▼ 雇用契約はフルタイム:ピークシーズンの変動に留意する

特定技能の在留資格を申請する外国人との雇用契約は、企業が遵守するべきポイントがあります。

  • 所定労働時間がフルタイムであること
  • 給与水準が同じ業務に従事する日本人と同等かそれ以上であること
  • 社会保険や労災について、外国人であることを理由に不当に差別しないこと(安全配慮義務等も当然に日本人と同等にある)
  • 一時帰国の際に有給休暇を取得できるようにすること(日本人の水準を上回ることは可能)

なかでも、雇用契約がフルタイムでないと特定技能1号ビザが許可されないことに注意してください。
所定労働時間として、週5日以上30時間以上が必要です。
アルバイト・パートタイムといった労働時間で特定技能外国人を雇用することはできません。

▼ 特定技能1号外国人の雇用は5年を超えてはいけない

特定技能1号外国人の滞在期間は上限があります。
宿泊業の特定技能1号を利用する外国人を雇用できるのは、一人当たり通算で最大5年までで、1年ごとに更新する必要があります
5年間の雇用を終えたら、当該外国人は本国へ帰国するか、特定技能以外の適切な在留資格を取得しなければいけません。
多数の外国人を雇用するケースでは、滞在の5年という上限を踏まえて採用計画を立ててください。

▼ 受入れ機関が行うべき支援計画とは

特定技能1号外国人を雇用する際は、受入機関は適切な支援計画を作成し実施する必要があります。
求められる支援計画とは、入国前のガイダンス、空港送迎、住居確保のサポート、職務上・生活上必要な情報の提供等が含まれます。
これらの支援計画は、所属する機関である企業が義務として行わなければいけません

こんな状況で活用できる!宿泊業で特定技能1号の在留資格を活用する運用ケース例

最後に、どのような状況で特定技能1号の在留資格を活用できるのか、宿泊施設で想定される運用例をご紹介します。

ケース1. 多言語対応できるフロントスタッフをホテルで採用したい

政府が依然として観光立国を政策に掲げていることから観光地で多言語対応の需要が増加しています。
英語だけでなく、スペイン語・中国語・韓国語といった訪日外国人が多い国の言語に対応できることは、宿泊施設として大きなアドバンテージになります。
フロントスタッフに語学が堪能な外国人を採用したいホテル・旅館で、特定技能の在留資格を活用できます。

ケース2. グループ企業の海外現地ホテルで働くスタッフを日本に呼び寄せたい

特定技能ビザは技能実習終了後や試験合格後の、既に日本に在留する外国人のみならず、海外から外国人を呼び寄せる際にも利用できます。
「グループ企業の海外現地ホテルで働くスタッフを、数年日本のホテルで雇用したい。」
「研修のために、一定期間呼び寄せたい。」
こうした状況でも、特定技能ビザが利用可能です。

ケース3. 訪日外国人を誘致するために特定の国に精通した外国人を広報で雇用したい

広報や企画といったマーケティングスタッフの雇用でも、特定技能ビザを利用することができます。
海外から外国人を誘致する際、現地の事情に精通した外国人がいれば、より魅力的なパッケージツアーを企画したり、宣伝手法を工夫したりすることが可能です。

まとめ:宿泊業にとって特定技能1号の活用は人手不足解消のチャンス

特定技能1号の在留資格は、これまで就労可能なビザが取得できなかった業務範囲で活用できる点で、宿泊業を営む事業者に大きなメリットがあります。
「増える訪日外国人に備え、多言語対応できるスタッフを採用したい。」
「現場で働くアルバイトの留学生を、正社員として雇用したい。」
「海外からのお客さんを誘致するために、現地に精通したスタッフを雇いたい。」
こうしたケースで、特定技能1号を活用できます。
ただし、特定技能外国人を雇用する際は、受入機関である企業に求められる義務を忘れてはいけません。
雇用契約の内容や支援計画の実施について、理解した上で採用を行いましょう。

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