「特定技能外国人を採用することになったが、雇用契約書に何をどう記載すればいいのかがわからない」
このような悩みを抱え、書類作成が止まってしまっている企業の担当者の方も多いのではないでしょうか。
特定技能の外国人を雇う際は、通常の日本人従業員と結ぶ雇用契約書とは異なり、報酬額の考え方や記載必須事項、多言語対応など特有のルールがあります。そのため、自己流で作成すると、出入国在留管理庁への申請時に修正を求められるリスクがあるのが実状です。
そこで本記事では、「特定技能の雇用契約書の書き方」について解説します。「記載必須事項」から「記載時の注意点」、「ひな形の構成例」に「入管の標準様式との関係」にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
特定技能の雇用契約書とは
特定技能の雇用契約書とは、特定技能外国人を雇用する場合、必要になる書類の1つです。契約の際に求められるため、採用担当者は事前に用意しておかなくてはなりません。
そんな雇用契約書に関して、まずは以下の2つにわけて詳しく解説します。
- ● 通常の雇用契約書との違い
- ● 申請書類として入管に提出する
通常の雇用契約書との違い
特定技能外国人の雇用契約書と、特定技能の雇用契約書の違いは、記載しなければならない内容にあります。中でも大きいのが、平成31年法務省令第五号(特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令)によって明確に定められている点です。
例えば、日本人従業員向けの一般的な雇用契約書は労働基準法の基準さえ満たせば自由に作成できますが、特定技能の場合は「業務内容」「報酬額」「雇用形態」などについて省令の基準に適合していなければなりません。
もし適合していない場合は、入管の審査で再提出を求められ、契約を結び直すことになる可能性があります。あわせて、外国人本人が十分に理解できる言語での作成が求められる点も、通常の契約書にはない特有のルールと言えるでしょう。
申請書類として入管に提出する
特定技能外国人の雇用契約書は、申請書類として入管に提出しなければなりません。なぜなら、単なる社内保管用の書類ではなく、在留資格の申請時に必要になる公的な書類だからです。
そのため、契約書の内容に不備があると、在留資格の許可が下りないケースもあり得ます。こうした点から、社内の一般的な雇用契約書と同じ感覚で作成することは避けた方が良いでしょう。
なお、実際の申請では「特定技能雇用契約書(参考様式第1-5号)」と「雇用条件書(参考様式第1-6号)」の2つをセットで作成・提出するのが一般的です。特別な理由がない限りは、出入国在留管理庁から様式をダウンロードして活用してください。
参考:出入国在留管理庁 | 特定技能関係の申請・届出様式一覧
特定技能雇用契約書の記載必須事項
特定技能の雇用契約書に記載すべき主な必須事項は、以下の5つです。
- ● 従事する業務の内容
- ● 報酬の額(日本人と同等以上)
- ● 雇用期間・就業場所
- ● 社会保険の加入
- ● 解雇・契約解除に関する事項
それぞれ詳しく見ていきましょう。
① 従事する業務の内容
雇用契約書には、従事する業務の内容を記載する必要があります。この際、特定技能外国人が合格した技能試験の分野・区分に対応していなければなりません。
ただし、分野の中には細かい区分が定められているものがあるため、注意しましょう。例えば、建設分野は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3つに分類されており、同じ建設分野でも「土木」の技能で採用した外国人に「建築」の業務をさせることはできません。
こうした点を加味して、業務内容が試験区分と一致しているかを、契約書作成前に必ず確認してください。
② 報酬の額(日本人と同等以上)
特定技能外国人の報酬の額は「日本人が従事する場合の報酬額と同等以上であること」が省令上の要件です。そのため、雇用契約書にも同様の内容を記載するようにしましょう。
この際、単に金額を記載するだけでなく、その金額がどのように算定されたのかを説明できる状態にしておく必要があります。
③ 雇用期間・就業場所
雇用契約書には、雇用期間と就業場所も具体的に記載する必要があります。中でも、有期雇用契約とする場合、契約期間の上限は労働基準法により原則3年までとされているため注意しましょう。
なお、特定技能1号は在留期間に上限があるため、在留期間の更新に合わせて契約を更新する有期契約が一般的です。一方で、特定技能2号は在留期間の上限がないため、無期雇用契約も制度上は可能となります。
就業場所についても、実際に業務を行う具体的な所在地を明記するようにしてください。
④ 社会保険の加入
雇用契約書には、社会保険・労働保険の加入状況も明記しなければなりません。日本人と同じく、以下への加入が基本となっているためです。
- ● 厚生年金
- ● 健康保険
- ● 雇用保険
- ● 労災保険
なお、雇用条件書の様式には該当する保険にチェックを入れる欄が設けられているため、それでチェックするのも良いでしょう。
特定技能の外国人が社会保険への未加入だと、審査における重大な指摘事項になるため、必ず適切に加入したうえで契約書に反映させましょう。
⑤ 解雇・契約解除に関する事項
雇用契約書では、解雇・契約解除に関する事項も、通常の雇用契約と同様に明記が必要です。
参考様式1-6号には、「特定技能外国人の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、所轄労働基準監督署長の認定を受けることにより予告手当(平均賃金)の支払いを行わず即時解雇されることもあり得る」といった規定例が示されています。
そのため、詳細は就業規則の該当条文を参照する形で記載するのが一般的です。あわせて、契約終了後に外国人本人が帰国する際の旅費についても、本人が負担できない場合は企業側が負担する旨の規定を設ける必要があります。
雇用契約書を記載する際の注意点
特定技能の外国人の雇用契約書を記載する際、注意しておきたいポイントがあります。中でも以下の3点に関しては、再審査に繋がる可能性もあるため注意しましょう。
- ● 「日本人と同等以上の報酬」の記載方法
- ● 多言語での契約書作成(外国人が理解できる言語)
- ● 契約書は口頭ではなく書面で締結する
「日本人と同等以上の報酬」の記載方法
特定技能外国人の雇用契約書には、報酬を日本人と同等以上と明記しなければなりません。その際、「日本人と同等以上の報酬」を証明するには、単に「同等です」と記載するだけでは不十分です。
実務上は、同じ職務内容・同程度の経験を持つ日本人従業員の給与水準(賃金規程・給与テーブル等)と比較したうえで、その金額の根拠を説明できるようにしておくよう求められます。
外国人であることを理由に報酬や待遇を不利に扱うことは禁止されているため、賃金規程がある場合はその適用ランクを明記し、賃金規程がない場合は比較対象となる日本人従業員の給与実態を示す資料を別途準備しておくようにしましょう。
多言語での契約書作成(外国人が理解できる言語)
雇用契約書と雇用条件書は、特定技能外国人本人が十分に理解できる言語(母国語または英語)で作成する必要があります。
ただしそうした書類を自前で用意するのは難しい部分もあるため、出入国在留管理庁の公式サイトで公開されている、英語及び9か国語(合計10言語)に翻訳された参考様式をダウンロードして活用しましょう。
日本語のみで作成した契約書に本人が理解しないまま署名させることは、契約の有効性そのものに疑義が生じるだけでなく、審査上も問題視される可能性があります。必ず外国人本人が理解できる言語でも作成するようにしてください。
参考:出入国在留管理庁 | 特定技能関係の申請・届出様式一覧
契約書は口頭ではなく書面で締結する
雇用条件は必ず書面(契約書)として締結し、口頭での合意だけで済ませないようにしてください。その際、雇用契約書と雇用条件書を2部ずつ作成し、受入れ企業と特定技能外国人がそれぞれ1部ずつ保管するのもポイントです。
なお、契約締結は、採用内定後、速やかにするのが望ましいとされています。
例えば、手続きが進んでから雇用条件の認識の相違が発覚すると、内定辞退につながるケースがあります。そうしたトラブルを回避するためにも、早い段階で書面による合意を固めておくとスムーズです。
特定技能雇用契約書のひな形(参考テンプレート)
特定技能の外国人の雇用契約書をどう書けばいいのか迷った際は、テンプレートを参考に書く方法がおすすめです。ここからは、以下にわけてひな形を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
- ● ひな形の構成例(項目別に紹介)
- ● 出入国在留管理庁の標準様式との関係
ひな形の構成例(項目別に紹介)
特定技能雇用契約書(参考様式第1-5号)と雇用条件書(参考様式第1-6号)の主な構成項目は、以下のとおりです。
- ■ 当事者の表示
- 特定技能所属機関(企業)名・代表者名/特定技能外国人の氏名
- ■ 契約期間
- 雇用開始日・契約期間(有期の場合は満了日)
- ■ 就業場所
- 実際に業務を行う事業所の所在地
- ■ 業務内容
- 従事する業務の具体的な内容(技能試験の区分と整合させる)
- ■ 労働時間・休日
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日の設定
- ■ 賃金
- 基本給・諸手当・支払方法・支払時期(別紙「賃金の支払」を含む)
- ■ 社会保険など
- 厚生年金・健康保険・雇用保険・労災保険の加入状況
- ■ 健康診断
- 雇入れ時健康診断・定期健康診断の実施予定
- ■ 退職・解雇
- 退職・解雇に関する規定、帰国旅費の負担について
「特定技能雇用契約書」は、企業名・代表者名・外国人氏名などを記入する部分が中心で内容の変更はほぼ不要ですが、「雇用条件書」は就業場所・労働時間・報酬額などを具体的に記載する必要があるため、記入漏れがないよう詳細に書くようにしましょう。
出入国在留管理庁の標準様式との関係
出入国在留管理庁は、「特定技能雇用契約書(参考様式第1-5号)」と「雇用条件書(参考様式第1-6号)」を公式サイトで無償公開しています。
申請の際に自社オリジナルの雇用契約書を使うこと自体は可能ですが、その場合は入管の標準様式で求められている情報をすべて過不足なく盛り込む必要があるため、実務上は手間もリスクも大きくなります。
こうした点も考慮すると、受入れ機関が通常使用している自社の契約書ではなく、入管の標準様式をベースに作成した方が安全です。標準様式には英語及び9か国語に翻訳された版も用意されているため、多言語対応の要件も同時に満たせる点でメリットがあります。
参考:出入国在留管理庁 | 特定技能関係の申請・届出様式一覧
よくある質問
- 既存の雇用契約書を流用できる?
- 自社で使っている既存の雇用契約書をベースにすることも、制度上は可能です。しかし、特定技能の省令で定められた必須記載事項がすべて盛り込まれている必要があります。もし不足項目があると、入管の審査で不備を指摘されかねません。記載漏れや解釈の相違を避けるためにも、出入国在留管理庁が公開している参考様式(第1-5号・第1-6号)をそのまま活用することを強くおすすめします。
- 外国語訳は必要?
- はい、必要です。雇用契約書と雇用条件書は、特定技能外国人本人が十分に理解できる言語(母国語または英語)で作成しなければならないためです。なお、出入国在留管理庁のサイトでは、英語及び9か国語に翻訳された参考様式が公開されています。受け入れる外国人の母国語に対応したものを、ダウンロードして使用してください。
まとめ
特定技能の外国人の雇用契約書は、「業務内容」「報酬額」「雇用期間」「社会保険の加入」「解雇に関する事項」という5つの必須事項を、省令の基準に適合させた形で記載しなければならない申請書類です。
特に、報酬額では「日本人と同等以上の報酬」である説明が必要な点に加え、外国人本人が理解できる言語でも作成されているかは、審査で特に重視されるポイントとなります。
そのため、既存の雇用契約書を流用したり自社独自の書式を作成したりするよりも、出入国在留管理庁が公開している参考様式(第1-5号・第1-6号)をベースに、多言語版を活用しながら作成するようにしましょう。
もし、記載内容に不安がある場合や、労働関連法令との適法性に疑義がある場合は、申請前に労働基準監督署や特定技能制度に精通した行政書士への相談もおすすめです。