はじめて外国人採用をし、雇用契約をするにあたって「雇用契約書に何を書いておくべきかわからない」というご相談を、企業の採用担当の方からよく頂きます。
このコラムでは、「外国人を雇用する際の雇用契約書や労働条件通知書の内容はどのようにすべきか?」というご質問に、外国人雇用のプロである行政書士がわかりやすく解説します。
1.外国人を雇う際に作成する雇用契約書・労働条件通知書のポイント
▼ 日本人社員のものとベースは同じ
会社が外国人を採用する場合には、雇用契約書又は労働条件通知書を作成する必要があります。
作成する雇用契約書等の内容は、日本人を雇った際に作成するものと基本的に同様のもので大丈夫ですが、在留資格(ビザ)の申請上注意しなければならないポイントがいくつかあります。
▼ 入管へのビザ申請で求められる内容
入管にビザの申請をする際に作成する雇用契約書又は労働条件通知書には、最低限下記の内容が記載されている必要があります。
- ・就業場所(勤務する場所)
- ・外国人が従事する業務の内容
- ・雇用契約の期間
- ・報酬額(賃金額、支払の方法、給与の締切及び支払の時期)
- ・勤務時間(始業時刻~終業時刻)、休憩時間、休日・休暇に関する事項
- ・時間外労働の有無
- ・退職に関する事項
この内、給与の額については、時給換算した場合に最低賃金を下回らないことはもちろんのこと、同じ業務をする同程度の経験を有する日本人従業員と同等以上である必要があります。
なお、報酬とは「一定の役務の対価として与えられる給付」であり、「基本給」・「賞与」・「資格手当」・「役職手当」が含まれます。
一方、「通勤手当」・「扶養手当」・「住宅手当」・「残業手当」は含まれません。
また、雇用契約書に記載する「外国人が従事する業務の内容」は、ビザ申請時に提出する他の申請書類等の内容と矛盾のないものであることが必要です。
2.雇用契約上のトラブルを防ぐためのポイント
では、具体的にどのような点に留意して外国人との雇用契約書を作成すれば良いのでしょうか?
▼ 「停止条件つき雇用契約」とは?
雇用契約書や労働条件通知書はビザ申請の際に作成するものであり、留学生である外国人を採用してビザの変更申請をするような場合には、その留学生はビザ変更申請が許可されるまでは就労を開始することができません。
万が一、ビザ申請が不許可になってしまった場合等を想定して、「ビザ申請が許可されてはじめて雇用契約書や労働条件通知書の効力が発生する」という内容の条件を足しておくことが賢明です。
これは同時に、会社は不法就労に加担しませんという姿勢の顕れにもなります。
このような条件は、法律上「停止条件」と言います。停止条件とは、将来発生することが不確実な事実を契約等の効力の発生要件とする場合の不確定な事実を言います。
小難しい言い回しですが、ビザ申請の際の雇用契約書との関係では、「ビザの申請が許可されること」を条件として、雇用契約が有効になるという内容になります。
具体的には、雇用契約書や労働条件通知書に、「本契約は日本政府により入国(在留)許可されない場合は発効しないものとする」という趣旨の文言を入れることになります。
▼ 労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書と雇用契約書は性質上の違いがあり、作成する際の手続きも異なります。
労働条件通知書は、会社が外国人に雇用する際の条件を一方的に伝えるための書類です。そのため、意思を表示する側の会社の署名・押印は必要ですが、意思を伝えられる側の外国人の署名・押印は不要です。
一方、雇用契約書は、特定の雇用条件で就労してもらうこと・することに対して会社と外国人が合意をしたことを証明する書類になります。そのため、当事者である会社と外国人両者の署名・押印があるものを2通作成し、それぞれが1通ずつ保管することになります。
外国人のビザ申請の審査上は、外国人の雇用条件の内容について見られることから、労働条件通知書を提出してもよいですし、もちろん雇用契約書を提出してもよいです。
ただし、雇用する外国人との労務上のトラブルを回避するという意味では、合意したことを証明する雇用契約書のほうが有用です。
▼ 労働条件通知書・雇用契約書は「日本語」のままで良いか
雇用契約書であっても労働条件通知書であっても、上記の書面の趣旨からすると、雇われる外国人が労働条件について理解していることが前提となります。
そのため、雇用契約書や労働条件通知書は「本人が理解できる言語」で作成することが求められます。
厚生労働省のホームページ(⇒こちら)に外国人向け労働条件通知書のモデルが掲載されていますので、参考にするのも良いです。
3.外国人への労働条件通知書・雇用契約書に明示すべき内容は?
▼ 労働条件通知書と雇用契約書の「書面」で明示すべきもの
雇用契約自体は、実のところ民法上は当事者間の口頭の約束でも成立します(民法623条)。
しかし、労働基準法では、下記の内容については書面によって労働者に明示することを雇用主の義務としています。
- 【労働条件通知書・雇用契約書に明示すべき内容】
- ・労働契約の更新の基準に関する事項(期間の定めのある労働契約の場合)
- ・就業の場所に関する事項
- ・始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- ・賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- ・退職に関する事項(解雇の事由も含む)
▼ 就業規則に定めがある場合に明示するもの
下記は、就業規則等の中に定めがある場合に明示しなければならない労働条件です。
ただし、これらの事項は書面である必要はなく、口頭の説明でもよいです。
なお、「就業規則の該当する箇所を書面で渡す」ことでも、明示をしたことになります。
- 【雇用契約書・労働条件通知書に明示すべき就業規則の内容】
- ・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- ・臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金 並びに最低賃金額に関する事項
- ・労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- ・安全及び衛生に関する事項
- ・職業訓練に関する事項
- ・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- ・表彰及び制裁に関する事項
- ・休職に関する事項
(労働基準法施行規則参照)
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